花屋敷の主人は蛍に恋をする
「あーー!樹さん、もう帰っちゃうの?!陽菜と遊んでないのにー!」
出会った時と同じように、勢いよく玄関の扉を開けて出てきたのは、もちろん陽菜だった。お昼寝が終わり起きたのだろう。その後ろからは恵も姿を見せてくれる。
笑顔で陽菜を出迎えた樹は、彼女の頭を優しく撫でてあげていた。
「また遊びに来ます」
陽菜はまだ遊んでほしかったようで、陽樹に甘えるように抱っこをせがんでいた。まだ4歳の女の子だというから、しっかりしているなと驚いたが、そういう大人に甘える所は子どもらしいな、と菊那は思い微笑ましく見つめていた。
「陽菜は史陀さんが大好きなんだ。かっこいいからって言ってて……将来が心配だよ」
「ふふふ。女の子らしいね」
「…………菊那、少しいいか………?」
「うん?」
日葵はちらりと樹を見た後、日葵達と距離をとった。何か話があるのだと菊那はわかった。
「どうしたの?樹さんの事?」
「あぁ……僕は史陀さんを尊敬してるよ。無名だった俺の絵を好きになってくれたんだ。本当は1度絵を描くのを止めようとした事があったんだ。そしたら、「勿体無いです」って、俺の絵を何点か纏めて買ってくれたんだ。そして、そのお金で「都内で個展をひらいてみてください」ってね。半信半疑だったけど、その個展は大成功したんだ。だから、俺にとっては恩人なんだ」
「そうなんだ………日葵くんの絵はとっても素敵だから。描き続けてほしいな。私もいつかお金を貯めて買いに来るね」
「菊那にならプレゼントするさ」
「いいの。買いたいの」
「じゃあ、刺繍のものとの交換は?」
「あ、それいいね」
2人はクスクスと笑いながら、そんな約束を交わした。昨日までの菊那は、こうやって日葵とまた話せる日がくるなど想像もしていなかった。お互いの作品を見せ合って楽しめるなんて、なんて幸せなのだろう。学生の頃に出来なかった事を、今からやれるのも素敵だな、と思った。