花屋敷の主人は蛍に恋をする
「すみません。驚かせてしまって。……何の話しをしていたのですか?」
「………えっと………それは……」
「菊那にこれをあげようと思って引き留めたんだ。」
そう言って日葵はズボンのポケットから小さな透明な袋を出して、菊那に手渡した。その中にはいろいろな種類の種が入っていた。
「向日葵の種。日葵くん、ありがとう」
「次はしっかりと咲くよ。1つじゃなくて複数で、な。いろんな向日葵を楽しんでくれ」
「うん。何が咲いたか、今度教えるね」
菊那は大切にその種を受け取りながら、そう答えると、日葵は菊那を助けてくれた時と変わらない、あの無邪気な笑みを見せてくれたのだった。
田んぼや畑が続く道を、樹の車はゆっくりと進んでいく。菊那はその景色をにこやかな気持ちで眺める事が出来ていた。行きの不安な気持ちとは全く違う、梅雨明けの空のような心情だ。
菊那は緑の景色から隣に座る樹に視線を変える。そして、彼に向かって頭を下げた。運転している樹は見えないかもしれないので、気持ちを込めて言葉を伝えた。