花屋敷の主人は蛍に恋をする



 「樹さん、日葵くんと会わせてくれてありがとうございます。向日葵の種の咲き方法を、教えてもらいに行くのだとばかり思っていましたが………まさか、日葵くんと会えるとは………もう会えない相手だと思っていたので、本当の事を知れて本当に嬉しかったです。樹さんには感謝してもしきれません………」
 「菊那さん、気にしないでください。あなたの話に出てきた「日葵」という名前を聞いた瞬間にすぐに彼だと思ったので。すぐに伝えればよかったのですが、本当に彼なのかわからず、期待だけさせてしまうのも申し訳ないと思ったので………すぐに伝えられませんでした。それに、日葵さんと考えたサプライズ旅行は成功したみたいで、よかったです」


 一瞬こちらを見て微笑んだ樹は、いつもと変わらない笑みを浮かべている。
 そんな彼を見て、日葵が最後に言った言葉を思い返した。



 『あの人の魔法をといてあげてください………』


 その言葉の意味は何なのだろうか。
 魔法というのは、やはり花屋敷の四季の庭だろうか。けれど、その肝心の魔法というのがよくわからない。
 それに、菊那を気に入っている?というのも、わからなかった。

 確かに自分の屋敷に招いてくれたり、こうやって菊那のために遠い地まで足を運んでくれている。それに、本人にも「気になっている」と、言われた。
 けれど、彼が自分を気に入っているとは思えないのだ。
 ………菊那は樹の事を知らなすぎるのだから。



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