花屋敷の主人は蛍に恋をする
「菊那さん………?大丈夫ですか?」
「え、あ………ごめんなさい!ボーッとしてしまっていて」
考え事をしたまま黙り込み、固まってしまった菊那を心配したのか、樹は車道の脇に車を止めて、菊那の顔を覗いていた。
気がつくと、彼の綺麗な顔が目の前にあり、菊那は驚いてつい体をビクッとさせてしまう。
先程、彼に対して驚いてばかりだなと反省しつつ、日葵に謝罪した。
「長旅でしたし、思いもよらない展開にもなったはずなので、疲れてしまいましたよね。日帰りでは疲れてしまうと思ったのでホテルを予約しております。食事もホテルで食べましょう」
菊那がぼーっとしてしまったのは、疲れているせいだと勘違いした樹は、すぐに、車を発進させた。心なしか先程よりスピードが早くなったように感じる。
ホテル、という言葉にドキッとしつつも、彼は紳士なのだから、菊那がドキドキするような事はないだろう。
菊那の甘い妄想は、すぐに頭の中から削除されたのだった。