花屋敷の主人は蛍に恋をする
「申し訳ごさいません。こちらダブルのお部屋をご予約になっています。こちらの不手際かと思います。大変申し訳ございません。他の部屋を確認させていただいてもよろしいですか?」
「………そうですか。それでは、部屋はほのままでいいので、もう一部屋予約出来ますか?」
「…………お待ちください。連休初日という事もありまして、ほとんどが埋まっております。最上階のスイートでしたら予約可能なのですが」
何やら予約を間違っていたようで、スタッフが何度も頭を下げている。
そして、聞こえてきた「スイート」という言葉に、菊那は驚き、咄嗟に樹のスーツの裾を掴んだ。
「………菊那さん、どうしました?体調が悪くなりましたか?」
「ち、違います。その………私は気にしていないので、一部屋で大丈夫です………だから、スイートなんて………」
こんなにも豪華なホテルだ。最上階のスイートとなったら、菊那の1ヵ月分の給料でも足りないはずだ。
樹にはここまでの連れてきてくれ、日葵に再会させてもらった恩がある。ホテル代ぐらいは自分が払おうと思っていた矢先にスイートの話が出たのだ。菊那は真っ青になってしまった。
けれど、そのスイートに泊まらなければ、菊那と樹は同じ部屋に泊まる事になる。一瞬の躊躇いはあったものの、菊那の手は動いていた。
相手は、目の前の紳士である樹なのだ。気になる相手でもあるのだから、何も迷う必要などない。
そう思い、菊那は顔を赤くしながら彼にそう言ったのだ。