クールな騎士団長は獣な本能を初夜に目覚めさせる
 カ―ラの呼び掛けはもちろん、ドリーとの続きの会話も、本当は耳に届いていた。けれど、私は聞こえない振りをして歩き続けた。
 だって男性との恋やデートというのは、私には縁のない話だ。


 私が暮らすここブルノージュ島は、トクターナ王国の内海に浮かぶ小さな島だ。
 トクターナ王国の北岸は入り組んだ特徴的な地形をしており、外海から内陸に抱え込むようにして内海を有している。
 その内海のほぼ中央に位置するブルノージュ島は、一島まるまるが女子修道院として機能する近隣諸国でも珍しい島で、国民の間では修道院島という通り名で呼ばれることが多い。
 本土までは船で一時間ほどの距離。晴天の折には対岸に本土の陸地を捉えることができる。
 ちなみに、本国から孤立したこの島の地理だけを聞けば、誰もが俗世を切り離されて島に閉じ込められた修道女たちの侘しい暮らしぶりを想像するだろう。けれど実際は、そうではない。
 もちろん修道院ゆえに質素倹約を旨としているが、決して寄付金頼みのその日暮らしではなかった。
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