クールな騎士団長は獣な本能を初夜に目覚めさせる
「……けれどマリアを助けてくださったこと、ブドウを守ろうと行動してくださったこと、これらに感謝は尽きません。この上はどうか、マリアの心を裏切ることだけはないよう、その一点を切にお願いいたします」
 続きに語られた言葉に驚き、弾かれたように顔を上げれば、修道院長と俺の目線が絡んだ。
 敬虔に神に仕え、俺の倍の年月を生きてきた彼女の目。その目を前にすると、嘘で固めた鎧が剥がされていくような、居心地悪さを覚えた。
 もしかすると修道院長には、俺のついた嘘も、思惑も、全て見通されているのではないか? ともすれば、そんな疑問すら浮かんできそうだった。
「あなたの信頼を裏切ってしまったことに、言い訳の言葉もありません。けれど、マリアの心を裏切ることだけはしないと、この剣にかけて誓いましょう」
 ……修道院長がどこまでわかっているのか、本当のところはわからない。しかし、修道院長がマリアに向ける真摯な思いは、痛いくらいに伝わってきた。その心に、俺は最大限の礼を尽くして答えた。
「……騎士にとって、剣は命。その誓いを信じましょう」
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