きみがため
私は、中学の時のつらい思い出も話した。

だからずっと、夏葉に自分を隠していたこと。

夏葉は全部、私の気持ちを受け入れてくれた。

「夏葉と友達で、本当によかった……」

感極まってそう言うと、夏葉は少しバツが悪そうに頭を掻く。

「あー、そのことなんだけど……」

首を傾げると、夏葉は意を決したように、私と向かい合う。

「私も真菜に秘密作りたくないから、全部言うね。私が真菜に声かけたきっかけはね、小瀬川くんに言われたからなの」

「え、そうだったの……?」

「でも、誤解しないで。真菜とずっと話したかって言うのは本心。小瀬川くんは、踏み切れないでいた私の背中を押してくれたの」

「……そうだったんだ。ううん、誤解なんてしてない」

「よかった。『水田さんに声かけて欲しい』って急に言われてね。小瀬川くんと同中だった女子って私だけだから、言いやすかったんじゃないかな」

なんで桜人がそんなこと……。頭の中がぐるぐるしている。

美織と杏と離れるきっかけを作ったのは彼だから、責任を感じてたのかもしれない。

数カ月越しに知る桜人の優しさに、じんとする。

呆然と桜人に想いを馳せていると、夏葉がそっと微笑んだ。

「小瀬川くん、真菜のことが好きなんだと思う」

そんなことを藪から棒に言われ、固まってしまった。
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