きみがため
美織の嫌悪感溢れる顔に、どっと笑いが起こる。

教室を見渡せば、どこもかしこも満足そうな笑顔が溢れてて、がんばってよかったと心から思った。

これが、“青春の一ページ”というものなのかもしれない。

まるで他人事のような、増村先生のその口癖が苦手だったけど、今は先生の言っていたことがなんとなく分かる気がした。

達成感に満ちた、夕暮れの教室の雰囲気。

再来年にはバラバラの道を行く私たちの心がひとつになった、今しか味わえない、尊い時間。

この瞬間を、心に刻んでいたいと強く思う。

皆で楽しく話し込んで、ふと時計を見ると、五時を過ぎていた。

十月に入ってから、日が暮れるのも少しずつ早くなってきていて、窓の外はもう薄暗くなっている。

「そうだ、部室行かなきゃ」

思い出した私は、立ち上がる。

クラスのことが落ち着いたら文集を取りに来るよう、川島部長に言われていたのだった。

毎年文化祭に合わせて製作される文集は、図書室と、教員全員に配布される。

余ったものの中から部員が各々一冊ずつ持ち帰り、残りは部室で保管するらしい。

私と桜人は文化祭実行委員で忙しいだろうからと気を遣ってくれて、製本と印刷は川島部長と田辺くんがやってくれた。

だから、私はまだ完成したものを見ていない。

「真菜、どこか行くの?」

「文芸部の部室。取りに行くものがあるの」

「そう。気を付けて行ってきてね」

夏葉に別れを告げてから、教室を出た。

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