きみがため
「じゃあ、中学のときも文芸部だったの?」

「いや、中学のときは文芸部がなかったから、帰宅部。だけど詩は、家でひとりで書き続けてた」 

当たり前のように、さらりと桜人は言ってのけた。

詩を書くことが日常の一部だなんて、すごすぎる。

「じゃあ、文集に載ってる詩は、桜人の想いのほんの一部なんだね」

桜人の家には、いったいどれだけ彼が紡いだ詩が眠っているのだろう。

ほんの二編見ただけの詩に、これほどまで惹かれたんだから、もしもそれらすべてを目にしたなら、私はどうなってしまうのだろう。

桜人の紡いだ言霊の波に、溺れてしまうかもしれない。

だけど、それでいいと思った。

そうなりたいと思った。

そしてふと、すんなり、心が認めたんだ。

――この気持ちが、好きって感情だということを。
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