きみがため
私と夏葉は親友だ。桜人にどういうわけか避けられるようになったこと、それでも彼を想い続けると決めたことは、彼女には話してある。

夏葉はいつも、静かにあたたかく、私の話を受け入れてくれた。

「うん。ありがとう」

自分でも思う。

以前の私だったら、めそめそ思い悩んで、また自分を責めていた。

周りと自分を比べて、“普通”であることに固執して――。

桜人が、私の世界を変えてくれた。

「私は、ずっと真菜の味方だからね」

「私も、ずっと夏葉の味方だよ」

ふたりして、笑い合った。そのとき――。

ポケットに入れていたスマホが振動して、慌てて取り出す。

お母さんからの着信だった。

嫌な予感がして、急いで画面をタップする。

すぐに息せき切ったようなお母さんの声が聞こえた。

『真菜? 光が、また入院になったの。あの子、今日友達と遊びに行ったみたいで、途中で発作が起きて……』

嫌な予感は的中した。

外でのびのびと遊べないことに、光はストレスを抱えていた。

そのことで友達が減り、学校でも孤立していた。

だから友達に少しでもなじもうと、無理をしてまったのだろう。

「お母さん、今病院なの?」

『職場の人が気を利かせてくれてね。仕事を抜けて、入院の手続きとか、支度はできたの。だけど真菜、今から病院に行って、面会時間ぎりぎりまで光に付き添ってくれない? 今日のあの子、すごく落ち込んでて心配なの』

お母さんの言いたいことは、よくわかった。

光は、このところずっと様子がおかしい。

病気である自分を責めているようなふしがあった。

笑うこともなくなり、大好きだったゲームもしなくなり、ぼうっと宙を見つめていることが目立つようになっていた。

今誰かがそばにいないと、光はダメになってしまうかもしれない。

『ごめんね、塾なのに』

「一日くらい、大丈夫だから。すぐに行くね」

光の病室の番号を聞いて、すぐに電話を切った。

「光くん、また入院……?」

夏葉が、心配そうに聞いてくる。

「そう。ごめんね夏葉、約束してたのに」

「ううん。私のことは大丈夫だから、すぐに行ってあげて」

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