きみがため
いつものバスに乗り、K大付属病院に向かう。

寒さの中見上げた空は、まばゆいほど澄んだ青だった。

入院病棟のエントランスを抜けて、光の病室がある二階を目指す。

エレベーターはまだ来そうになかったから、階段で上がることにした。

二階までなら、階段でもすぐだ。

階段から二階の廊下に出ると、ナースステーションが目の前だった。

横をすり抜け、光の居室を目指す。

今回、光は六人部屋だ。

同室は、子供だけじゃないみたい。

空きがなくて、大人と一緒の部屋になったのだろう。

入り口のプレートで示された右側の真ん中のカーテンをシャッと開けると、そこには、きれいに布団がたたまれたベッドがあるだけだった。

「光……?」

一瞬、間違えたのかと思った。

だけど棚に置かれたボストンバッグは、間違いなく光が入院のたびに使っているもので、置かれているタオルやコップにも見覚えがある。

トイレだったらいいけど……。

様子がおかしかっただけに、少し心配だ。

再び廊下に出て、光を求め、あたりを散策する。

しばらく行くと、前に光が入院していたふたり部屋のとなりに、小さなドアを見つけた。

ドアは少しだけ開いていて、風に煽られ、蝶番がギイギイと音をたてている。

おそらく、内側の窓が開いているのだろう。

「…………」

なんとなく、吸い寄せられるように、そこに向かって歩んでいた。

前に光がとなりの部屋に入院していた時は、物置か何かだろうと、気にも留めなかったのに。

ちょうど廊下の果てにあるこのドアは、ほとんど目立たない。
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