きみがため
バキッのようなドサッのような大きな音が、どこからともなく鳴り響く。
「きゃああ!」と、どこかで悲鳴が聞こえた。
「人が落ちたぞ!」
「子供だ! 子供が落ちた!」
膝から下に力が入らなくなって、私はその場に、がっくりと崩れ落ちた。
何もかもを、信じたくなかった。
何もかもが、嘘であって欲しかった。
「なんてこと……!」
すぐ近くで、近藤さんが、嗚咽を上げて震えている。
その姿を見て、妙に意識が鮮明になった。
――腰を抜かしている場合じゃない。
私は大急ぎで階段を駆け降りると、エントランスを抜け、桜人と光が落下したと思しき中庭に向かった。
緑の芝生が生い茂る中庭には、以前光がスケッチをしていた樫の木が、大きく枝を広げていた。
時期的に葉はほとんど落ちていて、寒々しい姿だ。
樫の木の真下には、すでに人だかりができていた。
人混みを縫うように、中心を目指す。
そこには、桜人が横たわっていた。
枝が擦れたのか、顔には痛々しい傷跡があった。
けれど、まるで怪我をしているとは思えないほど、穏やかな顔で目を閉じている。
桜人の脇には白衣を着たお医者さんがいて、ペンライトを片手に、瞼の裏を見たり、脈を確認したりしている。
騒ぎを聞いて、すぐに駆けつけてくれたのだろう。
ただ事ではない様子を目の当たりにして、また、身体中の生気が奪われていくような感覚に襲われた。
だけど、「命に別状はないようだ」と呟いたお医者さんの声を聞いて、少しだけ気持ちを持ち直す。
「姉ちゃん!」
私に気づいた光が駆けてきて、すがるように抱き着いてきた。
「光? 無事なの?」
「僕は、大丈夫……」
光は私の胸に顔をうずめ、泣きじゃくっている。
「どうしよう、さっちゃんが……」
「……さっちゃん?」
うん、と光は頷くと、涙でボロボロになった顔を、地面に横たわる桜人に向けた。
「あの人が、さっちゃん……」
「きゃああ!」と、どこかで悲鳴が聞こえた。
「人が落ちたぞ!」
「子供だ! 子供が落ちた!」
膝から下に力が入らなくなって、私はその場に、がっくりと崩れ落ちた。
何もかもを、信じたくなかった。
何もかもが、嘘であって欲しかった。
「なんてこと……!」
すぐ近くで、近藤さんが、嗚咽を上げて震えている。
その姿を見て、妙に意識が鮮明になった。
――腰を抜かしている場合じゃない。
私は大急ぎで階段を駆け降りると、エントランスを抜け、桜人と光が落下したと思しき中庭に向かった。
緑の芝生が生い茂る中庭には、以前光がスケッチをしていた樫の木が、大きく枝を広げていた。
時期的に葉はほとんど落ちていて、寒々しい姿だ。
樫の木の真下には、すでに人だかりができていた。
人混みを縫うように、中心を目指す。
そこには、桜人が横たわっていた。
枝が擦れたのか、顔には痛々しい傷跡があった。
けれど、まるで怪我をしているとは思えないほど、穏やかな顔で目を閉じている。
桜人の脇には白衣を着たお医者さんがいて、ペンライトを片手に、瞼の裏を見たり、脈を確認したりしている。
騒ぎを聞いて、すぐに駆けつけてくれたのだろう。
ただ事ではない様子を目の当たりにして、また、身体中の生気が奪われていくような感覚に襲われた。
だけど、「命に別状はないようだ」と呟いたお医者さんの声を聞いて、少しだけ気持ちを持ち直す。
「姉ちゃん!」
私に気づいた光が駆けてきて、すがるように抱き着いてきた。
「光? 無事なの?」
「僕は、大丈夫……」
光は私の胸に顔をうずめ、泣きじゃくっている。
「どうしよう、さっちゃんが……」
「……さっちゃん?」
うん、と光は頷くと、涙でボロボロになった顔を、地面に横たわる桜人に向けた。
「あの人が、さっちゃん……」