きみがため
担架が用意され、桜人が運ばれていく。

桜人を見送ったお医者さんが、光の方に向きなおった。

「彼は無事だ、心配ない。そもそもそこまで高いところから落ちたわけではないし、そのうえ樫の木の枝が、君たちを守ってくれたんだよ。怪我もないし意識もはっきりしているけど、君も一応検査した方がいい。中に入りなさい」

お医者さんに誘われ、光も病院の中へと戻っていった。

よく見ると、桜人が倒れていた周りには、無数の枝が落ちていた。

二階だったのと、真下に樫の木があったことが、幸いしたようだ。

澄んだ青空に向けて、光と桜人を助けてくれた樫の木が、優しく枝をそよがせている。

――『そうだ、“君がためゲーム”をしよう』

――『君がためゲーム? なんだそれ』

――『古今東西みたいなかんじで、相手のためにできること、順番に言い合いっこするの』

――『……ふーん』

風の音が、どこか遠いところから、無邪気な子供の声を運んでくる。

ハッとして、私は辺りを見渡した。

だけどそこには、人知れず生い茂る芝生が、静かに広がっているだけだった。
< 164 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop