きみがため
光の身体に別状はなかった。

だけど鬱傾向があると、お医者さんに診断された。

「飛び降りるつもりなんてなかったんだ。でも、空があんまりきれいで、気づいたら身体が勝手に動いてて……」

病院に駆けつけたお母さんの胸で、光は泣きじゃくりながら、何度もそう言った。

涙ながらに何度も頷いて、お母さんは光の気持ちを受け止めていた。

「ごめんね、光。そばにいてあげれなくて、ごめんね。ずっとつらかったのにね」

どうして光の異変に気づきながら、もっと早くに対処できなかったのだろう。

重い病と複雑な友人関係。

抱え込むには、その身体はあまりにも小さすぎた。

姉の私が、支えてやらなければいけなかったのに……。

私は、それをしなかった。

お母さんはむせび泣く光を抱きしめたまま、顔を上げて私を見る。

「助けてくれた方は、どこの病室にいらっしゃるの?」

「五階って言ってた……」

桜人は頭を打ったものの、検査の結果、内部に異常は見られなかった。

左側を下にして地面に落下したらしく、左手首にひびが入っていたのと、あとは枝が当たったことで出来た擦り傷があちらこちらにあるだけだ。

今は五階の個室で眠っていると、近藤さんが言っていた。


< 165 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop