きみがため
帰り花
本は、僕を別の世界に連れて行ってくれる。

居場所がなくなればなくなるほどに、僕は本に夢中になった。

なんでも読んだ。

純文学も、ファンタジーも、絵本も、エッセイも、歌集も。

文字は、言葉は、とめどなく僕の思考を満たしてくれる。

すがるように、文字を追いかけた。

違う自分を探すように、言葉を探した。

小児白血病。

その診断名がくだされてから、もう長い間入院している。

気づけば、小学校にもろくに通わないまま、十二歳になっていた。

真っ白な壁、薬品の入り混じったつら気臭い匂い、食事の時間になったら廊下に響く食事用のワゴン車の音。

それが、僕のすべてだった。

運よく手術をすることが決まり、無事成功すると、周りの大人たちは言った。

すぐに、“普通”の生活ができる。

“普通”の子供みたいに、学校に通うことができる。

だけど目覚めたとき、毎日付き添っていたはずのお母さんが、いなくなっていた。

離婚したのだ、とお父さんの姉である叔母さんが教えてくれた。

僕の看病に疲れ切って、夫婦仲がこじれ、姉を連れて出て行ったと。

もう二度と会うことはないだろうと。

ひょんなことから僕の世話を任されるようになった叔母さんは、憂鬱そうな顔をしていた。

たまにくるお父さんも、げっそりと、まるで覇気を失っていた。

僕のせいだ。

僕が“普通”じゃない体で生まれたから、皆を不幸にしてしまった。

全部、僕が悪いんだ――。
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