きみがため

僕が歩むこの世界は、澱んで、濁っている
どんなにもがいても、出口が見えない
だから僕は、君のために影になる
光となり風となる
僕が涙を流すのは、君のためだけ
僕のすべては、君のためだけ
深い海の底に沈んだこの世界で、僕は今日も君だけを想う

そこには、苦しいほどの、“君”に対する想いが綴ってあった。

詩の勉強なんてしたことがないから、この詩がうまいかどうかなんてわからない。

わからないけど、そんなことはどうでもいいと思った。

わずか七行の、他のどの作品よりも短いその詩は、不思議なほど私の心に響いた。

そして、たまらなく泣きたくなった。

不器用なほど真っすぐな、“君”に対する真っすぐな想いが、じわじわと胸を揺さぶったんだ。

――悲しくて、あたたかい。

心の奥底から、今まで感じたことのない熱い感情が込み上げた。

「どうしますか、入部しますか?」

ふいにかけられた声に、詩の世界に支配されていた私は、我に返った。

川島部長が、眼鏡をクイッとやりながら、こちらを見ている。

「あ、ええと……」

こんな、早急に決めないといけないのだろうか?

戸惑いながら、名もない詩に視線を落とす。

心臓がドクドクと鼓動を刻んでいる。

名もなき詩の一文一文が、いまだ頭の中を、ゆっくりと揺蕩っていた。

そして、まるで口から言葉が流れ出てきたかのように、私は自然と返事をしていた。

「……はい。入ります」
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