きみがため
「こんな時間まで、高校生が遊んでるんじゃねえよ」

苦々しく吐き出されたおじさんの悪意ある呟きが、私の心に傷を作る。

私は、遊んでいたわけじゃない。

学校でつらい一日に耐え、弟の病院に行っただけだ。

それなのに、どうして、そんな嫌味を言われないといけないのだろう。

おじさんは、私のことなんてなにも知らないのに。

みじめな気持ちになって、どうしようもないほどに泣きたくなった。

「……っ」

唇元が、震える。足に力が入らない。

だけど、ここで泣いてはダメだと思った。

路上で泣いている女子高生なんて、普通じゃない。

私は、普通でありたい。

当たり前からはみ出したくない。

私よりもっとつらい境遇の人は、世の中にいくらでもいる。

悲劇のヒロインぶっている場合じゃない。

もっと頑張れば。頑張ればいいだけなんだ。

だけどどんなに自分に言い聞かせても、足からはみるみる力が抜けていく。

そのうち立っていられなくなり、私は足もとから崩れ落ちるように、その場にうずくまった。

「ハア、ハア……」

何コレ、息が苦しい。

いつものように平生を装うと努力しても、うまくいかない。

まるで喉が詰まったみたいに呼吸がうまくいかなくて、瞳には生理的な涙が次々溢れ出す。

「ハッ……ハア……」

頑張らなきゃ………。
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