きみがため
「――おい、大丈夫かよ」

そのときだった。

すぐ近くから聞こえたそんな声に、朦朧とする意識が引き戻された。

どうにか顔を上げれば、思いもしなかった人がいて、一瞬息苦しさを忘れる。

そこには、私の顔を心配そうにのぞき込んでいる小瀬川くんがいた。

「…ぜ…」

小瀬川くん、って言いたかったけど、うまく言葉にならなかった。

小瀬川くんは眉をしかめると、私の背中に向かって手を伸ばした。

ためらうように一度手を止めたあと、遠慮がちにさすってくる。

「落ち着いて。ゆっくり息吸って」

「……っ」

私は、涙目でかぶりを振った。

急に、今までどうやって呼吸をしていたか、分からなくなってしまったのだ。

私の声にならない声を理解しているかのように、小瀬川くんは「大丈夫だから。息、ちゃんと吸えるから」と言い聞かせてくる。

「俺の、口の動きをよく見て。同じように動かして」

小瀬川くんが僅かに口を開け、ゆっくりと時間をかけて息を吸い込む。

それから、また時間をかけて、ゆっくり息を吐き出した。
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