きみがため
私は今にも死にそうなのに、小瀬川くんは慌てる様子はなく、淡々としていた。

そのせいか、彼の言は真実味を帯びているように感じた。

大丈夫、これは慌てることじゃない。

私は、ちゃんと息を吸える。

小瀬川くんは全然慌ててない。

だから、死ぬほどのことじゃない。

彼の口の動きを見て、どうにかその通りに真似をしようとした。

呼吸が荒れているから、リズムを掴むのに時間がかかったけど、小瀬川くんはいつまでも傍を離れることなく呼吸の動きを繰り返してくれた。

そのうち、今までの困惑が嘘のように、呼吸の仕方を思い出していく。

「……息、戻った」

幾度も呼吸を整え、もう大丈夫だと思った頃に、ようやく声が出た。

すると小瀬川くんは、ほんの少しだけホッとした顔を見せたあとで、何も言わずに私の背中から手を離す。

グレーのストライプシャツに黒のロングエプロン。よく見ると小瀬川くんは、カフェの制服姿のままだった。

「……小瀬川くん。もしかして、バイト中だった?」

「そうだけど、終わりかけだったから」

気にしなくていい、という意味なのだろう。

カフェの窓ガラス越しに、路上にうずくまる私を見つけて、助けに来てくれたんだ……。

「ごめんね。助けてくれてありがとう」

どうにか笑って見せれば、小瀬川くんは、先ほどまでの穏やかな口調からは考えられないほど、不機嫌そうな顔をした。

――え、何……?

「無理して、友達ごっこなんかしてるからそうなるんだ」
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