きみがため
心臓がバクバクと暴れまわっていて、昨日のように呼吸を忘れそうになったけど、どうにか言い切る。

呆気に取られている美織と杏奈をそのままに、お弁当を持って、急いで教室を出ようとした。

「え。何あれ、感じ悪い」

「他に食べる人いないだろうから、一緒に食べてあげてたのにね」

背中越しに、ヒソヒソと言い合うそんな声が聞こえて、胸がえぐられる心地がした。

だけど唇を引き結んで耐え、廊下に出る。

――言ってしまった。

美織と杏奈が、この先私を仲間に入れてくることはもうないだろう。

私は、完全にひとりぼっち。

女子グループからハブられた、哀れな人間。

普通じゃない状況に、全身から汗が噴き出すような焦燥感を覚えた。

でも、もうどうしようもない。

もう、後戻りはできない。

お弁当を食べられる場所を求めて、学校内を歩き回る。

中庭も多目的室も、どこもお弁当を囲む生徒でワイワイとしていて、とてもではないけどひとりポツンと食べる勇気は湧かなかった。

誰の目も気にせずに食べたいけど、人がいないところに思い当たる節がない。

そのときふと、閃いた。

そうだ。あそこなら、きっと絶対誰もいないはず――。

渡り廊下を抜けて、部室の並ぶ旧校舎三階を歩む。

目的は、文芸部の部室だった。

入部したものの、一度しかまだ部活には行けていない。でも一応部員だから、部室を使う権利はある。
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