きみがため
杏の声につられるように、私も杏が視線で示す方向に目をやった。
私たちのいる場所の、斜め後ろ。窓側の席で、男子生徒がひとり、机に突っ伏している。
他の生徒は皆お弁当やパンやら食べているから、寝ている彼は明らかに浮いていた。
窓から入り込んだ柔らかな風が、彼のモカ色の髪をサラリと撫でる。
そうか、彼は小瀬川というのか。
新学年になって一ヶ月が過ぎたのに、いまだクラスの名前を憶えていなかったことに、私は少しだけ焦った。
「小瀬川くん……」
つい小声で呟くと、隣で杏がクスリと笑う。
「真菜、小瀬川くんの名前、まだ覚えてなかったんでしょ?」
「えっ」
図星すぎて、ドキリとした。
小瀬川くんはすぐそこで寝てるのに、聞かれたら失礼過ぎる。
「小瀬川桜人くんだよ。桜に人って書いて、はるとって読むみたい」
「桜に人……」
きれいな名前。
まるで、満開の桜の木から生まれてきたみたいな名前だ。
私たちのいる場所の、斜め後ろ。窓側の席で、男子生徒がひとり、机に突っ伏している。
他の生徒は皆お弁当やパンやら食べているから、寝ている彼は明らかに浮いていた。
窓から入り込んだ柔らかな風が、彼のモカ色の髪をサラリと撫でる。
そうか、彼は小瀬川というのか。
新学年になって一ヶ月が過ぎたのに、いまだクラスの名前を憶えていなかったことに、私は少しだけ焦った。
「小瀬川くん……」
つい小声で呟くと、隣で杏がクスリと笑う。
「真菜、小瀬川くんの名前、まだ覚えてなかったんでしょ?」
「えっ」
図星すぎて、ドキリとした。
小瀬川くんはすぐそこで寝てるのに、聞かれたら失礼過ぎる。
「小瀬川桜人くんだよ。桜に人って書いて、はるとって読むみたい」
「桜に人……」
きれいな名前。
まるで、満開の桜の木から生まれてきたみたいな名前だ。