きみがため
「小瀬川くん……」

「なに?」

「……私、明日からも、ここに食べに来ていいかな」

声、震えていなかっただろうか。

ドキドキしながら顔を上げると、こちらを見る小瀬川くんの顔が目に飛び込んできた。

勇気をたたえるわけでもなく、憐れむわけでもなく。

小瀬川くんは、実に淡々と言った。

「そうしたいんならそうしなよ。ていうか、俺の許可なんて必要ないし」

「……うん」

「水田さんは、水田さんの好きなように生きなよ。誰にも、水田さんの行動を制約する権利なんてないんだ」

「――うん」

どうしてだろう。 

小瀬川くんの言葉に返事をした途端、瞳に涙が溢れた。

好きなように生きたらいい。

誰にも、私の行動を制約する権利なんてない。

そんなふうに思ったことは、今までなかった。

お母さんのために、光のために、頑張らないといけないと思っていた。

無理して、自分を偽って、女子グループからはみ出さないようにしがみついて。

そうやって、“普通”を演じないといけないと思っていた。

だけど、そうじゃないんだと教えられた気がして。

普通じゃなくてもいいんだと言われた気がして。

突き放されているようにも聞こえる言葉だったけど、心がホッとしたんだ。
< 40 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop