きみがため
涙を見られるのが恥ずかしくて、顔を伏せ、さりげなく指先で拭う。

だけど次に顔を上げたとき、思い切り小瀬川くんを目が合って、泣いてるのがバレバレだったことに気づいた。

小瀬川くんは、また不機嫌そうな顔をしていた。

それから、私の涙に対しては何も触れず、窓の外を向いてしまう。

ひとりが平気な気丈な彼には、めそめそ泣くような女子はきっとうっとうしいだけだろう。

だけど、泣き止まなきゃと思えば思うほど、涙は止まってくれなかった。

「ううっ……」

できるだけ声を押し殺そうとはしたけど、どうしても無様な泣き声が漏れてしまう。

「うっ、ううっ……」

涙で顔はボロボロ。鼻水だって出ている。

お母さんの前でも、お父さんが亡くなった日以降一切泣いていなかったのに……。

どうして昨日初めて話したばかりの小瀬川くんの前で泣いてるんだろうって、情けない気持ちになったけど、涙は止まる気配がなかった。

小瀬川くんは、私のむせび泣きなど聞こえないかのように、ずっと窓の向こうを見てていた。

聞こえてるけど、うっとうしいからあえて無視しているのか。

それとも、気を利かせて聞こえないフリをしてくれているのか。

分からないけど、何も言わないでいてくれることが、今はひたすらありがたかった。
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