きみがため
人生、沈むときもあれば浮き上がるときもある。

クラスでひとりぼっちの私に、突然親友ができた。

夏葉とは、驚くぐらい気が合った。

気を遣わなくても、気を張らなくても、自然体で一緒にいれる存在。

私は、いつも夏葉と一緒にいるようになった。

移動教室のとき、体育の時間、そして昼休み。女子グループから離脱した者同士、クラスにいると冷たい視線を感じることもあったけれど、夏葉がいれば怖くなかった。

夏葉と仲良くなった日から、私は昼休みに文芸部の部室に行くことがめっきりなくなった。

だから、小瀬川くんとの接点もなくなった。

光が退院したから、病院近くのカフェの前を通ることもなくて、バイト中の彼を見かけることもなくなる。

でも、斜めうしろの窓際にいる彼の存在は、教室でいつも意識していた。

相変わらず、小瀬川くんは誰ともつるまず、ひとり気だるげに授業を受けている。

登校はギリギリだし、休み時間はどこかに行ってしまうし、バイトがあるせいか下校は誰よりも早い。

意識しているのは私だけで、彼の方は、私のことなんてどうでもよさそう。

きっと毎日忙しい彼は、私と過ごした些細な日々のことなんて、忘れてしまっているのだろう。

そう思うと、ほんの少しだけ、寂しさが芽生えた。
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