きみがため
六月に入り、シャツネクタイから、夏服に切り替わった。

水色の半そでシャツが溢れている教室は、澄んだ青空を連想させた。

まるで、ひと足先に夏が来たかのよう。

窓の外を見れば、緑葉の揺らぐ木々の上空には、灰色の雲が立ち込めていた。

梅雨入りも、あともう少しなのかもしれない。

ある日の、ホームルーム。

「えー、じゃあ、十月にある文化祭の委員を決めるから。男女ひとりずつな」

そう言って、今日もジャージ姿の増村先生が、黒板に“文化祭実行委員”とチョークで書き連ねた。

「主な仕事内容は、文化祭の出し物の総括だ。出し物決めから、人の割り振り、物品の調達、予算の管理など、仕事はいくらでもある。やりがいのある委員だぞ。ザ・青春の一ページだ。やりたい人は手を上げて」

お得意の決めゼリフ、“青春の一ページ”を、どうだと言わんばかりに声高に言い切った、増村先生。

クラス中が、シーンと、若干引き気味に静まり返る。

このクラスは、あまりそういうことに乗り気なクラスじゃないみたい。こういう委員みたいなのは、“率先してやる人”と、“誰かがやってくれるだろうと思っている人”に二分される。

どうやらこのクラスには、後者が集まってしまったみたい。

正真正銘そういう私も『誰かやってくれないかな』のスタンスで、小・中とすり抜けてきた、やる気のないタイプだけど。
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