きみがため
「あれ? やりたい人、いないのか? 青春のいい思い出になるぞー」

あいにく先生がいうところの“青春”まっただ中にいるらしい私たちは、思い出目線では現状を見ることができない。

目の前の面倒ごとが、ただ増えるだけだ。

「どうしたー? 立候補が無理なら、推薦でもいいからな」

先生が、焦れたように黒板をチョークでコツコツと叩いたそのとき。

「先生」

教卓の前の席の美織が、勢いよく手を上げた。

「水田さんがいいと思います。向いてると思います」

うつむいていた私は、驚いてガバッと顔を上げた。

姿勢よく黒板に顔を向けている美織の顔は、私からは見えない。

推薦しておきながら、美織も私を振り返ろうともしない。

だけど、まるで申し合わせたみたいに、女子たちから次々「賛成~」の声が上がっている。

続けて、どこからともなくクスクスと小馬鹿にしたような女子たちの笑いが漏れた。

恐る恐る顔を上げれば、杏や、夏葉と同じグループだった子たちが、こちらに含んだような視線を注いでいる。

その瞬間、私は気づいた。これは私に対する嫌がらせだ。

美織と杏は、私のことをよく思っていない。

夏葉と同じグループだった子たちも、そうみたいだった。

もしかしたら、夏葉を奪われたと思っているのかもしれない。
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