きみがため
「あー、水田かー……」

私の家庭の事情を知っている増村先生は、困ったように頭を掻いた。

家事をしたり、光の面倒をみたりしないといけない私は、放課後長くは残れない。

それに、光がまた入院にでもなったら、たとえ文化祭直前であろうと、クラスのことに没頭できなくなる。

だけど、私が委員をできない理由を話せば、必然的にうちの家庭事情についても話さないといけなくなる。

私がそれをクラスメイトに知られたくないことに、多分増村先生は気づいている。

だから、困ったようにずっと唸っていた。

そんな先生を見ていたら、心底申し訳なくなる。

それに、このままの状態が続くのは、耐えられなかった。

だってこの雰囲気、まるでいじめられてるみたいじゃないか。

私はいじめられているわけじゃない。そんなみじめな人間じゃない。

普通の、ただの目立たない、人付き合いの悪い女子なだけ――。

「――先生、私やります」

意を決してそう言うと、先生が困惑の表情を私に向けた。

「でも、大丈夫か?」

「大丈夫です、できます」

もう一度念を押すように言うと、先生はようやく納得したように「そうか。困ったときはなんでも相談しろ」と言ってくれた。

「じゃあ、女子は決まりだな。男子は推薦ないか?」

クラス中の男子が、一斉に下を向いた。

そりゃそうだ。面倒な仕事なうえに、相方は女子たちからハブにされてる女子だなんて、誰だって嫌だろう。

だけどそんな中、突如「お?」と増村先生が声をあげ、教室の後方を見た。

「小瀬川。やるのか?」

「――はい」
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