きみがため
その日の放課後。

久しぶりに、文芸部に行ってみることにした。

参加するのは、これで三回目だ。

入部早々幽霊部員になりはててしまって、普通なら気まずいところだ。

だけど増村先生の許しがあったし、部員たちもそれを咎めたりするタイプではなさそうだから、それほど気にならなかった。

部室棟の一番端にある文芸部は、ひっそりとしていて、まるであることすら忘れられているみたい。

ドアノックすれば、「どうぞ」といつもの淡白な川島部長の声が帰ってきた。

「水田です。入ります」

ガチャリとドアを開ける。

途端に、開け放しの窓から、サアッと風が吹いてきた。

狭い部室に、ほんのり雨の香りが立ち込める。

朝から曇りだったし、夕方から雨が降るのかもしれない。

湿気を孕んだ風を肌に感じると、なぜか心が洗われるような、清涼な気持ちになった。

長テーブルの上座、いつもの位置で、川島部長はいつものように本を読んでいた。

壁際の書架の前では、くるくる頭の田辺くんが本を物色していた。

「久しぶり、水田さん。今日は増村先生来ないから、ゆっくりして」

「はい」

川島部長の声に答えてから、部室に足を踏み入れる。

だけど次の瞬間、驚きのあまり体の動きを止めていた。

川島部長の背後、窓辺に置かれたパイプ椅子に、小瀬川くんが腰かけて本に目を落としていたからだ。
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