きみがため
「どうして……」

委員決めのことや、夏葉の話もあり、ずっと胸の奥で小瀬川くんのことを考えていただけに、驚きもひとしおだった。

呆然としていると、ちらりと目だけをこちらに向けた小瀬川くんの代わりに、川島部長が答えた。

「会うのは初めてだったかしら? 彼、二年の小瀬川くん。ほとんど来ないけど、うちの部員よ」

「部員……?」

思ってもみなかった川島部長の返事に、動揺してしまう。

だけど考えてみたら、小瀬川くんがこの部室でお昼ご飯を食べているのは、部員だったからなんだと合点がいった。

縁もゆかりもない部室でも、彼なら『人が来ないから』という理由で無断で使用しそうだと、勝手に思い込んでしまったのがいけなかった。

それに、大人っぽくてあか抜けた外見からして、小瀬川くんは文芸部という雰囲気ではない。

文芸部って、地味な人が在籍しているイメージだから。そんな勝手な先入観も、邪魔していたように思う。

「小瀬川くんにも、紹介するわ。新しい部員の、水田さん」

川島部長が、小瀬川くんに顔を向ける。

「知ってます。同じクラスなんで」

「あら、そうだったの? なら話が早いわね」

川島部長は納得すると、再び本の世界に戻っていった。
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