きみがため
僕が涙を流すのは、君のためだけ
僕のすべては、君のためだけ
閉ざされたこの世界で、僕は今日も君だけを想う
なんて真っすぐで、ひたむきで、美しい詩だろう。
何が、この人にこれを書かせたのだろう。
ほんの数行のその詩に改めて熱中していると、「あ」と隣から声がした。見ると、田辺くんが、私が手にしている冊子を覗き込んでうれしそうな顔をしている。
「どうかした?」
すると田辺くんが、詩を指差し、からかい口調で言った。
「それ、小瀬川先輩が書いたんですよ。イメージに合わないですよね」
――え?
驚いて窓辺にいる小瀬川くんに目をやると、凄んだ顔の彼と目が合う。
彼の方でも、私たちの会話を耳にしていたようだ。