きみがため
ガタッとパイプ椅子を引いて立ち上がると、小瀬川くんはものすごい勢いでこちらへと歩んでくる。そして私の手から、奪うように冊子を取り上げた。
「ちょっ……!」
何するの、と言いかけて、思わず固まってしまう。
冊子を持った手を隠すように背中にやっている小瀬川くんの顔が、見たこともないほど赤くなっていたからだ。
普段はあんなクールな小瀬川くんでも、こんな顔をするんだと驚いた。
「ごめん……」
きっと、ものすごく知られたくないことだったのだろう。
小瀬川くんの態度からそれを察知した私は、小さく謝る。
隣にいた田辺くんも、目を剥いていた。
彼にしろ、小瀬川くんがこんな行動をとるとは、予想できなかったみたい。
すると小瀬川くんが、ハッとしたように私に視線を戻した。
「俺こそ、ごめん……」
後ろ手に持った冊子を、前に持って来る小瀬川くん。
それから彼はしゃがみ込むと、冊子をもとあった場所に戻そうとした。
水色のワイシャツの、小瀬川くんのその背中は、全力で私を拒絶している気がした。
いつも以上に、境界線を引かれている雰囲気だ。
私にあの詩の作者が小瀬川くんだと教えてくれた田辺くんも、怯えた顔で彼を見ているほどに。
だけど、初めて読んだときからあの詩がずっと頭に残っていたことや、ツルゲーネフよりもゴールズワージーよりもよほど心を打たれたことを、どうしても小瀬川くんに伝えないといけない気がした。
病院の前で、呼吸困難になったとき。
文化祭の実行委員を決めたとき。
同じクラスになって二ヶ月ほどで、そんなに話したこともないのに、嫌になるくらい私の気持ちに気づいてくれた彼に。さりげなく、他の誰よりも寄り添ってくれる彼に。
素直な気持ちを、伝えなくちゃと思った。
「ちょっ……!」
何するの、と言いかけて、思わず固まってしまう。
冊子を持った手を隠すように背中にやっている小瀬川くんの顔が、見たこともないほど赤くなっていたからだ。
普段はあんなクールな小瀬川くんでも、こんな顔をするんだと驚いた。
「ごめん……」
きっと、ものすごく知られたくないことだったのだろう。
小瀬川くんの態度からそれを察知した私は、小さく謝る。
隣にいた田辺くんも、目を剥いていた。
彼にしろ、小瀬川くんがこんな行動をとるとは、予想できなかったみたい。
すると小瀬川くんが、ハッとしたように私に視線を戻した。
「俺こそ、ごめん……」
後ろ手に持った冊子を、前に持って来る小瀬川くん。
それから彼はしゃがみ込むと、冊子をもとあった場所に戻そうとした。
水色のワイシャツの、小瀬川くんのその背中は、全力で私を拒絶している気がした。
いつも以上に、境界線を引かれている雰囲気だ。
私にあの詩の作者が小瀬川くんだと教えてくれた田辺くんも、怯えた顔で彼を見ているほどに。
だけど、初めて読んだときからあの詩がずっと頭に残っていたことや、ツルゲーネフよりもゴールズワージーよりもよほど心を打たれたことを、どうしても小瀬川くんに伝えないといけない気がした。
病院の前で、呼吸困難になったとき。
文化祭の実行委員を決めたとき。
同じクラスになって二ヶ月ほどで、そんなに話したこともないのに、嫌になるくらい私の気持ちに気づいてくれた彼に。さりげなく、他の誰よりも寄り添ってくれる彼に。
素直な気持ちを、伝えなくちゃと思った。