きみがため
とても深い目の色だと思った。
陰のある彼のイメージそのまんまに、混沌としていて、迂闊には入り込めないなにかを感じる。
「小瀬川くん……?」
返事がないから、不安になって、彼の名前を呼ぶ。
すると小瀬川くんが、「はると……」と小さな声で、呟いた。
「……え?」
あまりにもボソボソした声だったから、聴き間違いかと思って聞き返すと、小瀬川くんはひとつ瞬きをして、今度は真っすぐに私を見つめて言った。
「桜(はる)人(と)って呼んで。俺のこと」
びっくりして、喉から変な音が出そうになる。
だけど驚きは、やがて温かな熱を伴って、じわじわと胸に広がった。
同じクラスなのに、いつも私を助けてくれるのに、どういうわけか私に境界線を引こうとしている彼が、突然近くに歩み寄ってくれたような気持ちになれたんだ。
「……うん」
自然と笑みが零れていた。
「分かった。桜人って呼ぶ」
素直な気持ちを伝えたことが、功を奏したのかもしれない。
正直な言葉は、ときに人を動かすことができるんだ。
「……コホンッ!」
そこで、隣からわざとらしい咳ばらいが聞こえて、ハッと目を覚ました。
そういえば隣にいた田辺くんが、恥ずかしそうにうつむいている。
「こっちが恥ずかしくなるから、そういうの、ふたりだけのときにやってくださいよ」
「は? そんなんじゃねーし……!」
小瀬川くんも、思い出したかのように真っ赤になって、私から離れていった。
川島先輩だけは、どこ吹く風といった感じで、先ほどと変わらず読書を続けている。
「……じゃあ、俺、用事あるんでもう帰ります」
陰のある彼のイメージそのまんまに、混沌としていて、迂闊には入り込めないなにかを感じる。
「小瀬川くん……?」
返事がないから、不安になって、彼の名前を呼ぶ。
すると小瀬川くんが、「はると……」と小さな声で、呟いた。
「……え?」
あまりにもボソボソした声だったから、聴き間違いかと思って聞き返すと、小瀬川くんはひとつ瞬きをして、今度は真っすぐに私を見つめて言った。
「桜(はる)人(と)って呼んで。俺のこと」
びっくりして、喉から変な音が出そうになる。
だけど驚きは、やがて温かな熱を伴って、じわじわと胸に広がった。
同じクラスなのに、いつも私を助けてくれるのに、どういうわけか私に境界線を引こうとしている彼が、突然近くに歩み寄ってくれたような気持ちになれたんだ。
「……うん」
自然と笑みが零れていた。
「分かった。桜人って呼ぶ」
素直な気持ちを伝えたことが、功を奏したのかもしれない。
正直な言葉は、ときに人を動かすことができるんだ。
「……コホンッ!」
そこで、隣からわざとらしい咳ばらいが聞こえて、ハッと目を覚ました。
そういえば隣にいた田辺くんが、恥ずかしそうにうつむいている。
「こっちが恥ずかしくなるから、そういうの、ふたりだけのときにやってくださいよ」
「は? そんなんじゃねーし……!」
小瀬川くんも、思い出したかのように真っ赤になって、私から離れていった。
川島先輩だけは、どこ吹く風といった感じで、先ほどと変わらず読書を続けている。
「……じゃあ、俺、用事あるんでもう帰ります」