きみがため
「そっか」

桜人はそう答えると、また下を向いて、黙り込んでしまった。

パラ……、と桜人が本を捲る音が室内に響く。

窓からそよぐ風が、彼のモカ色の髪を揺らした。

スッと通った鼻梁に、目元に陰を作る長めのまつ毛。同級生より大人っぽい桜人は、こうして見ると、今すぐにでも俳優になれそうなくらい見た目が整っている。

窓辺で本を読む桜人は、まるで映画のワンシーンのようにとてもきれいだ。

先ほどの名残のせいか、彼の首筋がほんのり赤い。

クールで何事にも動じない人だと思っていたけど、桜人は、わりと照れ屋みたい。

彼の知らなかった一面が知れて、気恥ずかしいながらも、うれしい気持ちになる。

そこで、彼が手にしている本の背表紙が目に入った。

――『後拾遺和歌集』

予想外の本のチョイスに、驚きを隠せない。
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