きみがため
腑に落ちない顔をしていると、「小瀬川くん」と浦部さんが囁いた。

「私、小瀬川くんのことが好きなの。だから、話すきっかけが欲しくて」

ストレートすぎる浦部さんの物言いに、ああ、と心の中で納得した。

そういうことか。

「水田さん、やりたくて委員になったわけじゃないでしょ? それにいつもすぐ帰るし、塾とか忙しいんじゃない? 代わった方が水田さんも助かると思うのよね。先生には私から言っておくから」

まるで、もう決まったことだとでも言わんばかりに、巻き髪を揺らして自信たっぷりに言う浦部さん。

たしかに、委員を変わってもらえたら助かる。

光がまた入院になったら、私は放課後長く学校に居残って委員の仕事をすることができなくなるから。――でも。

「……ごめん。代われない」

気づけば、反射的にそう答えていた。

途端に浦部さんは、眉間に皺を寄せる。

「なんで?」

「……もう、決まったことだから」

断固として言い切ると、浦部さんは不機嫌そうな顔で、「そ、ならいい」と私の前から立ち去ってしまった。

明らかに、背中が怒っている。

私のために桜人は立候補してくれたのに、ここで交代したら失礼だと思ったんだ。

相方が桜人に決まるなり、委員をやりたいと言いだした浦部さんの都合のよさを、ちょっと不快に思ってしまったのもある。

でも、よく分からないけど、もやもやと胸がくすぶっているのは――それだけが原因じゃない気がした。
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