きみがため
隣で、杏も申し訳なさそうに呟いた。

「それに、委員に推薦したのも意地悪。真菜、みんなを取り仕切るのとか苦手そうだから、困らせたくて。なのに真菜はちゃんとやってて、ますますムカついて、つまらない意地張ったんだ」

思いがけない美織の告白に、私は困惑した。

「でも、小瀬川くんはともかく、私は何もしてないから……」

「表立つことはしてないけど、裏方頑張ってるじゃん。リスト作ったり、みんの希望聞いて紙に書いたり。それでいいんじゃない? 小瀬川くん、ああ見えてみんな引っ張るのうまいし、リーダーは任せて大丈夫だと思う。それに、浦部さんとかめっちゃやる気だし、なんなら私も頑張るし。ていうかずっとやりたかったし、お化け屋敷なんて超楽しそーじゃん」

「あー、美織、ついに言えたね」

杏が、安心したようにクスクス笑ってる。

「そうだったの……?」

放心状態で見つめると、美織は少し顔を赤くした。

「……うん。真菜は、陰で皆を支えればいいと思う。そういうこと、私は出来るタイプじゃないから、逆にすごいって思ってる。できるとこできないとこ、皆で助け合いながら、補っていけばいいんじゃない?」

美織の照れたような笑顔を見ているうちに、目元が潤んで、視界がぼやけていた。

どうして、もっと早く本音で接しなかったんだろうって思って。

美織も杏も、こんなにもいい子だったのに。

桜人に言われなかったら、ふたりとの関係は、私にとって一生つらいものになっていた。

誤魔化すようにわたしは洟をすすると、さりげなく目元の雫を拭う。

美織の目元も潤んでいるように見えるのは、気のせいじゃないだろう。

「……教室に戻ろ」

そう言って微笑むと、ぎこちなくだけど、美織と杏は頷いてくれた。

久しぶりに、三人並んで廊下を歩く。

「ていうか私と杏をお化け役にしたの、真菜? 勝手にお化け役のところに名前があったんだけど」

「違うよ、多数決で決まったの」

「えー何それ。私たち、いったいどういうイメージよ」

「嫌なら変えてもらう?」

「いいって、真菜! 大丈夫! 美織、実はめっちゃやる気なんだから」

「ちょっと杏、そこは秘密にしといてよね」

ふと窓の外を見れば、朝からポツポツと降っていた雨がやんで、晴れ間が広がっていた。

雨上がりの青空は、水気が飛んだみたいに、からりとしていて清々しい。

私たちは、今までの気まずい関係が嘘だったように笑い合いながら、クラスメイトが待つ教室へと戻っていった。
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