きみがため
頼んだのは、アイスティーのストレート。

受け取り口で透明のカップに入ったそれを受け取り、適当な席に座った。

夕方七時の店内は、まずまず人が多かった。

スーツ姿の男女から、大学生っぽい集団、それから年配の人まで、客層は幅広い。

初めての空気感に緊張しながらアイスティーを啜っていると、

「おい」

すぐ横から、焦ったような声がした。

「こんなところで、なにやってるんだよ?」

それは、デニスカフェの制服姿の桜人だった。

こうやって見ると、やっぱり彼は、私と同じ高校二年生とは思えないほど大人っぽい。

「はると……。よかった、いた」

桜人と会えた安堵から、思わず頬が緩んだ。

すると桜人は、怒ったように私から視線を逸らす。

「バイトしてんだから、いるのは当然だろ? ていうか早く帰れよ、外もう暗いだろ」

突き放すような話し方をする桜人を、先ほどのダンディーな店員さんが、興味深そうに見ている。

「どうしても、報告したかったの」

そう言うと、桜人は黙って、少しだけ聞く姿勢を見せてくれた。

「桜人に言われた通り、今日、美織と杏と話したの。そしたら、嘘みたいにお互いの誤解が解けて、すごくいい雰囲気になった。美織も杏もやる気出してくれて、今日の作業、すごく進んだんだよ」

「そっか」と桜人が呟く。

「よかったな」

「桜人に言われなかったら、私、一生逃げてたと思う。桜人のおかげだよ。本当にありがとう」

気持ちを込めて、精いっぱいの笑みを浮かべる。

私よりずっと背が高いのに、上目遣いでそんな私を見たあとで、「そっか」とまた桜人は目を伏せた。

「昨日……」

「ん?」

「ごめんね、また桜人の前でボロボロに泣いちゃって」

ああ、とどうでもいいことのように桜人は言った。

桜人には、情けない姿を見られてばかりだ。

美織と杏と仲たがいしたときに部室で泣いたときなんて、鼻水もズビズビだったし。

「桜人には、かっこ悪いところを見られてばかり……」

すると「は?」と桜人の眉間に皺が寄る。

「お前、自分のこと、かっこいいって思ってたの?」

「そういうわけじゃないけど……」

「お前のこと、初めからかっこいいなんて思ってないから。だから俺の前で、かっこつけようとなんてするな、これからも……」

「…………」
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