きみがため
呆然としているわたしをそのままに、「仕事に戻るから、早く帰れよ」と言い残して、桜人は厨房の奥へと消えて行った。

彼はいつも、臆病な私の背中を押してくれる。

さりげなく、ときに強引に。

手を差し伸べ、寄り添い、つっけんどんな物言いでも、最後には支えてくれる。

グラグラな私の足元を、正してくれる。

胸が小さく鼓動を刻んでいて、頬が熱い。

桜人を目で追いながらヒソヒソと色めき立っている、隣の席の女の人たちが気になった。

残りのレモンティーを、一気に啜り上げる。

この感情がどういうものか気づかないほど、十六歳の私は、もう子供ではなかった。
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