きみがため
初嵐
「ありがとうございました~!」

店長の声が、店内にこだました。

制服用の水色のシャツの彼女の背中が、自動ドアの向こうに遠ざかっていく。

ちゃんと飯を食べてるのかと心配になるくらい細くて白い脚が、夜の闇に紛れていった。

通りすがりのサラリーマン風の男が、ちらりと彼女を振り返った。

その様子に、軽い苛立ちを覚える。

――心配だ。

日はどっぷり暮れてるのに、女子高生がひとり歩きなんて。

でも仕事はまだまだ残っているし、俺がどうにかしてやることはできない。

もやもやとした気持ちをどうにか心の中で押し殺していると、店長が近くに寄ってきた。

「ドアまで見送らなくて大丈夫だった? あの子、知り合いなんでしょ?」

「大丈夫です」

「大人しそうな、かわいい子だったね。もしかして、小瀬川くんの彼女?」

「……そんなんじゃないですよ」

言葉で抵抗しつつも、顔に熱が集まっていくのを感じた。

俺は赤らんだ顔を隠すように、テーブル拭きに集中する。

「なんだ。いつも礼儀正しい小瀬川くんが、なぜかあの子にだけは冷たかったから、ははん、もしかしてツンデレくん?って思ったのに」

「……だから、俺そういうのほんといいんで……」

この店長、やたらと俺にばかり絡んでくるのはなんでなんだろう。話好きそうなバイトは、他にいくらでもいるに。

俺が話を避けたがると、店長はますます楽しそうに近づいてくる。

思うに、ただのSだ。

「店長! レシートって、どうやって入れるんですか?」

「ああ、教えてなかった? はいはい」

レジに入ってた新人が、店長を呼んでくれたおかげでどうにか救われた。
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