きみがため
何を言っても手ごたえのない光の返事を聞きながら、私はベッドサイドに備え付けられた棚から、看護師さんが入れてくれた洗濯物の袋を取り出した。

普段はわりと愛想のいい子だけど、今はにこりともしない。

この大部屋にいるのは、皆光と同じくらいかもう少し幼い子供ばかり。

皆、お母さんが四六時中付き添ってくれるのに、うちはなかなか来られない。

だから、きっと拗ねているのだろう。

前もこんなことがあったから、光の気持ちは手に取るように分かった。

だけど、女手ひとつで私と光を養っているお母さんは、あまり病院に来られない。

それに、年が離れているとはいえ、姉に過ぎない私にお母さんの代わりは果たせない。

「二週間もすれば退院できるって、先生言ってたから。少しだけ、がんばろうね」

光が、非難の目を私に向ける。

「二週間って、けっこう長いし。二週間もしたら、クラスのみんな仲良くなってるよ。クラス替えしたばっかりだから、僕だけ浮くに決まってるじゃん」

ふてくされた顔をすると、光は寝返りを打ってベッドにうつぶせた。

「光なら、きっとうまくやれるよ。私と違って、友達付き合い上手だし」

「……すげえ他人事」

光はそれきり、何も言わなくなった。
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