きみがため
翌日。

「素敵ね」

相変わらず蒸し蒸しとした文芸部の部室内で、書き上げたエッセイを読み終えるなり、川島部長が眼鏡をクイッとやって言った。

「情景描写が、心情に呼応するよう巧みに書かれてるわ。文法もちゃんとしてる」

「本当ですか……?」

 あまり深く考えずに書いたやっつけ仕事だけど、めったなことでは人を褒めない川島部長に褒められると、すごくうれしい。

顔を輝かせていると、脇からエッセイを覗き読みしていた田辺くんが、うんうんと頷いた。

「夕日の表現とか、最高ですね。清少納言を思い出します」

「清少納言……?」

それは言い過ぎ、と思いつつも、悪い気はしなかった。

こんなにも人に褒められたことなんて、いつぶりだろう。

ほのかに夢見心地になっていると、川島部長がテーブルにおいた原稿用紙を、向かいに座っていた桜人がひょいと手に取った。

そのまま、じっと読みふけっている。

「…………」

川島部長に読まれるときよりも、ずっとドキドキした。

だけど読み終えた桜人は、黙ってもとあった場所に原稿用紙を戻すと、瞳を伏せ、なにも言わない。

「……どう思う?」

緊張しながら問うと、桜人は「よく書けてると思う」と静かに答えた。

素っ気なくはあるけど、褒められたみたい。
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