(仮)今日も推しの幸せを。
序章
「飛鷹真澄です。至らない部分も多々あるかと思いますが、1日でも早く皆さんのお役に立てるよう努力していきます。ご指導よろしくお願いします」
残暑厳しい9月。
寿命がとうに過ぎたであろうエアコンの送風音と共に、覚えのある声と名前が私の耳に流れてきた。
ひだかますみ。
その名前を聞いて、はじめは幻聴かと、もしくは聞き間違いかと思った。
ひだか、という苗字で私の神経が反応し、ますみ、という名前で全細胞が活性化した。…ような気がした。
コンタクトを入れてもなお落ち続ける現在推定0.7の視力を駆使してこれ以上なく目を細めて事務所の奥に立つ彼を見る。
え、本物?
「いやー、会社が一気に若返った気がするね。というわけで、うちの会社の最年少だから。皆さん、優しくしてよ」
専務の言葉に、職場の40代後半から50代のおじさん達がわはは、と笑い出した。
「とりあえず最初は谷さんの下について仕事覚えて。谷さん、よろしくね」
専務に指名された谷さんは、営業部の部長だ。
元々人当たりの良い人だが、丸い眼鏡が更に雰囲気を良く見せる。
「飛鷹君、見ての通りうちの会社は年齢層が高くてね。平均年齢40後半だったかなあ。でも変に頑固だったり意地悪な人いないから。ほとんど皆お気楽な人達だからさ、変に気負いしないで、何でも聞いてね」
「はい。ありがとうございます」
「仕事は僕が教えるけど、会社の事はこの子に聞いて。森本さん」
「えっ、あ、はい」
パソコンに入力するフリをしながら全神経をそちらに向けていたものだから、不意に名前を呼ばれて驚いた。