【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
まさか、その彼女に、あんな場面を見られてしまうことになるなんて、当時の僕は思いもしなかった。
"あんな場面"というのは、丁重にお断りを入れた筈の見合い相手である、ある代議士のご令嬢にしつこく付きまとわれていた僕が、なんとか諦めてもらうためにと芝居を打って、幻滅させることに成功した、"老舗ホテルでの平手打ち事件"のことだ。
あの時僕は、非力な令嬢から、笑ってしまうくらい威力のない平手打ちを喰らった痛みなんかよりも、やっと我儘な令嬢から解放される、と、ホッと胸を撫でおろしていた。
そこにまさか、うちの社員である彼女、高梨侑李が、ホテルの制服なのだろうなんとも色っぽいメイド服に身を包みワゴンを押して現れるなんて、誰が想像できただろうか。
いくら芝居だったとはいえ、副社長という立場である僕が、『変態』なんて言葉を浴びせられて平手打ちまで喰らったあんな場面を、社員である彼女に見られたことよりも、意外と似合っていた高梨侑李のメイド服姿に、あらぬ妄想を浮かべてしまった僕が少々クラッときてしまったことは置いておくとして。
ただでさえ、以前から、どこから漏れたかは定かじゃないが、この僕の少々他人には理解され難い性癖の所為で、社内で『鬼畜』だとかいう噂が出回っているというのに……。
これ以上、妙な噂なんて立てられて、女性関係のことで兄さんに釘を刺されている身としては、『今すぐに身を固めろ』なんてことを言い渡されても厄介だし、しっかりと口止めしておかないとな。
うちは、社員の質の向上を重視しているため、副業などはどんな理由があるにせよ認めてなどいない。
秘書室で勤務している彼女がそれを知らない訳がない。きっと、余程の理由があるのだろう。家庭の事情か何か、金銭的な何かが。
ーーなら、口を封じることなど容易いことだ。
この時の僕は、ただそれだけのつもりだった。高梨侑李と直接対峙するまでは。