【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
それからは、兎にも角にも、予想外なことばかりだった。
「橘って、あの老舗の料亭、橘、だよなぁ?」
「あぁ。驚きだろ? うちも昔から懇意にしてたし、隼のところも虎太郎さんがよく通ってたよなぁ?」
「……あっ、あぁ。虎太郎さんが病気になるまではよく連れて行ってもらってた。……で、母親が去年の暮れに病死して、父親も現在入院中、兄が友人の借金の連帯保証人になって、その友人が蒸発……って。まるで昼ドラのヒロインみたいだな」
「ハハッ、ホントだな。借金の額は一千万らしい」
「橘っていえば老舗だし、一千万くらいどうにでもなりそうだけどな」
「それが、運の悪いことに、この春店を改築したばかりで資金繰りは厳しいらしい。それに、借金取りも老舗の料亭を安く手に入れるために、裏であちこち手を回してるようだし、時間の問題みたいだな」
「……そうか。でも、この短期間でよくそこまで調べられたな?」
「うち、老舗の呉服屋だろ? 祖父母が顔広いからこの界隈のことならすぐ耳に入ってくるんだよなぁ」
まさか、彼女が、あの、老舗料亭『橘』の娘だったなんて、そんなこと思いもしなかったし。
まさか、彼女と、こんな風に再会することになるなんて、そんなこと思いもしなかったものだから。
ただただ驚きでしかなかった。
涼に話した通り、祖父の虎太郎さんは無類の酒好きだったこともあり、子供の時分から『橘』へはよく連れていかれたものだ。
ちょうど思春期の頃。
それまではずっと兄さんと対等だと思っていたのに、『YAMATO』の次期社長である兄さんと次男である僕とに、家族はそうでもなかったが、周囲の目が違っていくことにコンプレックスのようなものを感じていた僕は、そんな心情から、兄さんに突っかかってばかりいた。
その日も、虎太郎さんに連れられて兄さんと三人で『橘』に訪れていたのだが。
少し呑みすぎて上機嫌になった虎太郎さんが、後継者としての心構えのようなものを兄さんに熱弁し始めて、それを見ているのが嫌だった高校生になったばかりの僕は、庭園を眺めてくるとか言って和室から抜け出した時。
庭園でたまたま居合せたのが、恐らく小学生高学年くらいだっただろう、高梨侑李だった。