【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
彼女は、綺麗に手入れされた庭園の池の傍で、しゃがみ込んで声を殺しながら泣いてて、どうしたのだろう、と心配した僕が声をかけたところ。
泣ている所為か、ずいぶん興奮している様子だった彼女は、話しかけた僕の服に、飛びつくような勢いで掴みかかってくると。
物凄い勢いで顔を上げてきたかと思えば、今度は、キッと強い視線で僕のことを睨みつけてきて。
『私もお兄ちゃんみたいに男だったら良かったのに。そしたらお兄ちゃんみたいに、お父さんと一緒に美味しい料理いっぱい作ることがデキたのに。でも、どうして? どうして女は板場に入っちゃいけないの? やっぱりそんなの可笑しいッ! ねぇ? どうして? どうしてダメなの?』
視線と同じように強い口調で問いただしてきた。
「……」
僕はどう答えていいものか分からず、数秒間ふたりの間に沈黙が流れていた。
そこでようやく、僕が彼女の兄じゃないと気づいのだろう、泣き濡れた顔を恥ずかしそうに真っ赤にさせつつも、申し訳なさげに。
『おっ、お兄ちゃんかと思って、すみませんでした。どうしよう、お母さんに怒られちゃう。あっ、そうだ。これっ、これで内緒にしてください。これ、すっごく美味しんですよ?』
頭をペコペコと何度も何度も下げながら、いいことを思いついたとばかりに、ニッコリと屈託ない笑顔を満面に綻ばせた彼女が僕に差し出してきたのが、『YAMATO』のチョコレートだったものだから、僕は思わずプッと吹き出してしまい。
『あっ、今、ただのチョコレートだと思ってバカにしたでしょッ? 失礼しちゃう。これはそんじょそこらのチョコと違うんだから。チョコは『YAMATO』のが一番だって、お祖父ちゃんもお父さんも言ってたんだからね? 今度バカにしたら、そこの社長さんが来たら言いつけちゃうんだからッ!』
彼女は、それをバカにされたのだと勘違いしてしまったらしく、尚も食ってかかってくるのがあんまり可笑しくて。僕はつい。
『ありがとう。それ、うちのチョコなんだ。そういってもらえて凄く嬉しいよ。うちのチョコのファンってことで、さっきのことは内緒にしといてあげる。その代わり、僕が大人になってここに来たときは、君がここの看板女将になって、僕にお酌でもしてよ? きっと、その頃には、女性でも板場に入れるようになってるかもしれないし。ねぇ?』
小学生相手にそんな無責任なことを言ってしまってて。
でも、それは、本当は自分自身に対しての言葉だったのかもしれない。
どんな形であろうと、『YAMATO』の後継者の一人として、『YAMATO』を盛り立てていけるのなら、それも悪くないかもしれない。
こんな小さな女の子にも愛されるチョコレートを守り続けていきたいーー。
あの時、純粋に、そう思わせてくれた彼女と、まさか、こういう形で再会することになるなんて、僕は柄にもなく、運命めいたものを感じずにはいられなかった。