【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 それで、ようやくそのことに気づいた私が忌々し気に睨みをきかせている眼前で、この鬼畜は、

「以前から、あなたのことをお見掛けするたびに、美しい女性だなと思っていましたが、接する機会もありませんでした。ですが、今日、あなたの仕事ぶりを拝見して、僕は確信いたしました。
僕は、今まで本気で女性を好きになったことがありませんでしたが。それはきっと、あなたのような素晴らしい女性に出逢うためだったに違いありません」

「////」

少しも臆することなく、一切の躊躇いも、恥じらいもなく、聞かされているこっちが恥ずかしくて堪らなくなるくらいの、歯の浮くような甘いセリフを言ってのけた。

 極めつけには、両手で包み込んでいた私の右手を恭《うやうや》しく持ち上げると、その手の甲に、そうっと唇を寄せてきたと思ったら、優しく触れるだけのキスをお見舞いしてきて。

「よろしければ、これから、お食事でもご一緒にいかがですか?」

 呆気に取られすぎて、魂が抜けかかっている私のことを、なんとも甘い優し気な眼差しで、見つめつつ。

 あの甘いマスクでニッコリと微笑みながら、そんな言葉を放ってきたのだった。

 どうやら、これから、『雇用主』であるこの鬼畜の”恋人のフリ”をする『従業員』である私のことを、”恋人にするための偽装工作の一環"のようだけど、ここまでする必要なんて、ないと思うんですけど――。

 今更、そんなことを思ったところで、もうこうなっちゃったもんは、もうどうにもならない。

 もう、賽《さい》は投げられたのだ。

「……よ、喜んで」

 そう、返さざるを得ない状況に追い込まれてしまった私は、早々に匙を投げる(諦める)しかなかったのだった。
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