【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
不安一色に侵食されそうになっていた意識を目の前の現実に向けた私の眼前には。
和風モダンでなんとも近代的なオシャレな街の雰囲気にぴったりな、高級感漂う老舗呉服屋『くらや』の屋号の彫刻が施された檜材の大きな一枚板の看板が掲げられている立派な店構えが待ち受けていて。
その店先には、事前に蔵本から連絡が入っていたらしく、腰を折り深々と頭を下げて出迎えてくれている、五十代くらいの着物姿の女性が佇んでいるの様子が見て取れる。
ここに来るまでの道中、うんざり顔の蔵本が、
「隼が彼女連れて行くって言ったら、えらく張り切ってたからきっと店先で待ってると思う。お袋、昔から隼のこと可愛がってたからなぁ……。まぁ、適当に相手してやってほしい。けど高梨、《《くれぐれも》》、お袋の口車に乗って、俺に友人を紹介するとかいう《《妙な約束だけはしないでくれ》》」
ルームミラー越しに面倒臭そうにそう言ってきて、最後に念を押していたことから、どうやらこの女性が蔵本の母親らしい。
ちなみに、蔵本が念を押していたのは、三十路になってからというもの実家に帰れば『結婚はまだか?』と催促されていたのが、隼が婚約することを、『くらや』の常連らしい隼の祖母である雅《みやび》さんに聞いてからというもの、それに拍車がかかり、まだ結婚なんてしたくない蔵本は、心底うんざりしているから、らしかった。
それはさておき、蔵本の母親は、さすがは有名な老舗呉服屋の奥様だけあって。
鮮やかな濃い蒼紫の紫陽花の花々が胸元と足元にあしらわれた淡い紫色の着物がよく似合う和風美人だ。
そこへ、奥で接客をされていたらしい蔵本の父親とおぼしき男性の姿が加わった。