【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
「侑李ちゃん、いらっしゃいっ。待ってたのよ~!」
「えっ!? ちょっ……幸子《さちこ》さん?」
「もう、ビックリしちゃったわよう。いきなり恋人連れてくるなんて聞いちゃったもんだから。けど、素敵な方じゃない。それに、あの、『YAMATO』の副社長っていうじゃないの。良かったわねぇ。きっと、入院中の佑輔《ゆうすけ》さんも、大喜びで、きっとすぐに元気になってくれるわぁ」
「……」
「あら、どうしたの? いつもの元気がないじゃないの。あっ、分かったわぁ。やっぱり侑李ちゃんも、女の子ねぇ。好きな人の前ではしおらしいのねぇ。おばさん、安心したわぁ」
「……ハハハっ、まぁ、うん。そんなとこかなぁ……。ハハ」
「それにしても、侑李ちゃんたら、良い人見つけたわねぇ」
「……そうかなぁ……ハハハ」
私が小さな子供のころから、この橘で働いてくれていて、今は看板女将だった母に代わって、女将として支えてくれている幸子さんに出迎えられて早々。
ぐいと腕を引っ張られて、耳打ちされた私は、その話の内容により、私をここへ連れてきた鬼畜の”魂胆”を知るに至ったのだけれど……。
それを知った私が、キッと鬼畜のことを射抜くような強い視線で睨みをきかせたところで、鬼畜のしれしれっとした態度が変わる訳もなく。
私と話しながら、鬼畜の方をチラチラと窺っている幸子さんに、これまた、あの甘いマスクを最大限に活かした、人好きのするあのキラースマイルで、ニッコリと微笑んでみせている鬼畜。
どうやら、御年五十九歳を目前に控えた幸子さんにも、その効果は絶大のようで。乙女のように頬をポッと紅く染めてしまっている幸子さんの身も心も惹きつけて、眼をハートマークに変えてしまっている。
そこへ、奥の板場から、
「いやぁ、隼さん。お待ちしていましたぁ」
そう言って、尻尾を振ってご主人様を出迎えるワンコのように、出てきた兄が加わって。
談笑しながら奥の個室へと進み始めた兄たちに、幸子さんと私も続きながら……
――なんとも、恐るべし、キラースマイル。まともに喰らわないようにしなきゃ。
それにしても、あの派手なパフォーマンスにしたって、このいきなりの身内への恋人宣言にしたって。
事前に一言、言ってくれていたら、心の準備だってデキていただろうに……。
――まったく、人が悪にもほどがある……って、鬼畜だから当然か。
不服に思いつつも、私は、鬼畜のキラースマイルですっかり乙女のような恥じらいを見せる幸子さんに、さっきから、曖昧な笑顔と曖昧な返事を返すことしかできないでいる。
だって、文句を言ったところで、きっと、これも、”恋人のフリをするための偽装工作の一環”なのだろうし。
もし仮に、『従業員』である私が、ついうっかり下手なことを言って、鬼畜に、余計な業務を増やされて、余計面倒なことになるだけだろうと、ここでもグッと堪えるしかなかった。
それに、いくらここで私が何かを言ったところで、鬼畜にコロッと堕ちてしまっている幸子さんも兄も。
どっからどうみても、王子様のような御曹司にしか見えない、この好青年が、嘘を言ってるなんて、信じてくれないだろうし。
ましてや鬼畜だなんて夢にも思わないだろうから。