【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 あの後、要さんからの提案を聞き終えた私と隼が再び大広間へと戻ると、虎太郎さんはもうすっかり酔いが回って転た寝状態だった。

 虎太郎さんがうつらうつら船を漕いでいる姿を尻目に、雅さん、麗子さんにご挨拶して、初めて訪れた神宮寺家を後にした。

 それからはタクシーに揺られてマンションへ帰ると思いきや、何故か行き先を伝えた隼が口にしたのは、皇族や著名人が結婚式などでよく利用することで知られる格調高い老舗高級ホテルの『帝都ホテル』だった。

「隼? このまま帰るんじゃなかったの?」

 タクシーの運転手さんに指示を出した隼の言葉に、帰るものだと思っていた私が不思議に思って訪ねてみても。

「たまにはいいじゃないですか。それとも、僕のせいで色々あったので、疲れているなら、キャンセルいたしましょうか?」

 理由は話してはもらえなかった代わりに、予約をキャンセルしようかと尋ねられてしまい。

 そんなことしたらキャンセル料が発生してしまうんじゃないか、とそっちのほうが気にかかってしまって。

「ううん、疲れてないから全然平気。ほら」

 慌てて、ガッツポーズを決めて、疲れてないアピールをして見せた私に、隼はふっと柔らかな笑みを零してから。

「そうですか? でも、着物ですから、食事は部屋でゆっくり気兼ねせずに済ませる手筈になっています。勿論、ちゃんと着替えも手配しています。今夜は美味しいものを食べて、夜景でも眺めながらゆっくり過ごしましょうね?」

 そっと優しく肩を引き寄せられ、耳元で甘やかな声音で優しく囁かれてしまえば、色々あって気を張っていたせいか、途端にホッとして、不安も、何もかもがどうでも良く思えてきて。

 抱き寄せられた隼の腕の中で、私は、「うん」なんて、やけに素直に答えていたのだった。

 以前、隼も言っていたけど、肌と肌が触れあうだけで、しっくりくるというか、心地いいというか。

 なんだろう? こう肩を抱き寄せられて寄り添い合っているだけで、すっごく安心できて。

 隼から微かに漂ってくるシトラス系のオーデコロンに交じった隼自身の匂いも、私より少しあたたかな隼のぬくもりも、その全てが安定剤のように作用して、途轍もなく癒やされて。

 ずっとずっとこうしてくっついていたい。なんてことを思ってしまっていた。
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