【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 その後、譲さんと共に現れた、担当医となる産婦人科医の小石川《こいしかわ》香澄《かすみ》さんを紹介してもらった。

 見た目はファッション雑誌を飾るモデルかと思ってしまうほどのスタイルと美貌に、とっつきにくさを感じていたけれど、話してみると、とっても気さくで可愛らしい女性だった。

 なんでも、譲さんの奥様の妹さんで、隼にとっては同級生でもあるらしい。

 そして驚くことに、私にとって秘書室の先輩である夏目さんの彼女なんだそうだ。

 どうやら、仮の姿であるらしい夏目さんの雰囲気が以前より随分と柔らかくなったのは、この香澄さんのお陰のようだった。

 それはさておき、私が今赤ちゃんの次に気になっているのは、学生時代の隼のことだ。

 あれこれ妄想を膨らませつつ、現在妊娠二ヶ月になったばかりだということで、安定期になるまでの注意事項やこれからの説明を受けた後。

 私の隣には、とっても嬉しそうに赤ちゃんが写っているエコー写真をさっきからずっと食い入るように見つめ続けている隼の姿があった。

 なんとも微笑ましい光景だ。

 なんて思いつつも、隼の学生時代のことを聞くなら今がチャンスだと思った私が、使った器具を片付けている香澄さんに声をかけようとしたちょうどその時のことだ。

「小石川さん。侑李さんの身体にもしものことがあったらいけないので、何かあったときの対処法と、注意事項の確認をもう一度お願いできますか?」
「あ~、はい。どうぞ」

 ついさっきメモをとった革の手帳を取り出し、もう何度耳にしたか分かんないほど聞き飽きてしまった台詞を口にした隼。

「隼、さっき何度も確認したでしょ? そんなに何度もお聞きしたらご迷惑だよ」

 見かねた私が隼を止めようと口を挟むと。

「あぁ、ご心配なく。もう、隼くんのとっても心配性なお兄さんで慣れちゃってるんで構いませんよ? 気になることは今のうちに解消しておいて貰わないと、夜中や休日にいきなり電話かけてきて、呼び付けられるよりよっぽどマシなので。なんなりとどうぞ」

 そこはかとなく疲れた笑みを浮かべて、そう言ってくれた香澄さん。

 その様子からして、出産間近の美菜さんのことで、相当お疲れのようだ。

 そういえば、本宅にご挨拶に窺った時、要さんの愛妻家ぶりは相当のものだった。

 香澄さんと隼とのやりとりを尻目に、隼の学生時代が気にかかっていたはずが……。

 いつしか私の関心事は、妊婦となった私のことを予想以上に案じてくれている隼に対する懸念へと変わっていたのだった。

 案の定、その日から、元々優しかった隼は、なお一層優しくなって。

 あれから一月が経った今では、懸念していた通りの心配性を隼は遺憾なく発揮してくれている。

 それだけじゃない。

 私の妊娠が発覚した日、病院を出たその足で私の父と兄に報告に行くと言って聞かなかった隼の行動力には目を見張るものがあった。
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